池井戸潤の映像作品の仲で1番熱い、連続ドラマの「空飛ぶタイヤ」
以前に、池井戸作品は映画よりも連続ドラマの方が面白いと書いた。「空飛ぶタイヤ」も映画化されているが、連続ドラマの方が面白い。理由は明白で、映画は120分、連続ドラマは310分楽しめる。作品によっては、間延びする連続ドラマより、約2時間の映画の方が面白い作品は多々あるが、池井戸作品は中身が濃いので、連続ドラマの方が楽しめる。また、2006年に原作の小説は書かれているが、この作品以降、池井戸作品はレベルアップしたように感じられる。
ドラマは、三菱自動車工業が実際に起こしたトラックの脱輪事故や、リコール隠しをもとにした経済ドラマである。脱輪事故では、実際に29歳の2児の母が亡くなっている。
主な登場人物
赤松自動車
社長・赤松(仲村トオル)、専務・宮代(大杉漣)、整備士・門田(柄本裕)
ホープ自動車
常務・狩野(国村隼)、戦略課長・沢田(田辺誠一)、品質保証部課長・室井(相島一之)
ホープ銀行
専務・巻田(西岡徳馬)、調査役・井崎(萩原聖人)
その他
被害者・柚木妙子(山口もえ)、被害者の夫・柚木(甲本雅裕)、刑事・高幡(遠藤憲一)、週刊誌記者・榎本(水野真紀)
赤松運送のトラックが脱輪事故を起こし、子どもを連れて歩いていた柚木妙子に直撃し、死なせてしまう。当初赤松は、自社の整備士・門田の怠慢で起きた事故と思い門田をせめ、門田は赤松運送を辞めていく。その後、門田がトラックを完璧に整備していたことがわかり、赤松は門田に謝罪し、門田に赤松運送に戻ってきてもらう。警察には整備不良で疑いをかけられ、取り調べをうけたり、社会的信用を失い、取引先も無くしていく。しかし、門田の整備状況を信頼する赤松は、事故は車両そのものに起因するものだと主張し、警察及びホープ自動車に対抗していく。
池井戸作品のウリ、弱者が強者に立ち向かうドラマ
難しいのが、被害者遺族に対する姿勢だ。赤松としては、トラックに起因する事故なので、赤松運送側には一切責任がない、という立場だが、遺族を前にそれを前面に出すことはできず、むしろそういう赤松を、柚木は非難する。
ホープ自動車はホントに酷い。自社トラックに不備があり、事故が起きていることを知りながら、リコールにかかる費用を惜しむあまり、T会議という隠蔽のための会議を開き隠蔽する。これは、ドラマの中の話では無く、現実に今この世の中で、起きている話かもしれないと思うと、ぞっとする。リコール隠しを疑う沢田は、品質保証部の室井を問い詰めるがはぐらかされる。
経営難のホープ自動車は、グループ財閥のホープ銀行に融資を求めるが、担当の井崎は、簡単に融資が引き出せると思っているホープ自動車の態度に難色をしめす。井崎は、ホープ自動車の狩野常務の姪と婚約中という立場だ。ホープ自動車の狩野常務と仲の良い、専務の巻田が融資に積極的なことで、井崎は苦悩する。
このドラマでの、ホープ自動車の沢田、ホープ銀行の井崎の立場に、もし自分が置かされたらどういう行動をとるか、考えてみるのも面白い。
再調査を拒み続けるホープ自動車にたいして、自社で再調査をすることを決めた赤松運送は、ホープ自動車に事故を起こしたトラックのハブの返還を求めるが、再調査されると都合が悪いホープ自動車は返還を拒否し続ける。これも大企業の傲慢さか。
取引先が離れ、銀行融資の貸しはがしにあった赤松運送は、深刻な経営難に陥っている。ホープ自動車は赤松運送に、ハブの返却の代わりに補償金として1億円を支払うと提案する。従業員や家族を守るため、プライドを捨てて1億円をもらうのか、判断に迷うが結局は受け取らない選択をする。
赤松は、事故の原因が自社の整備不良ではないことを証明するために、ホープ自動車のトラックで事故を起こした他の運送会社に接触し、原因を調べていく。週刊誌記者の榎本も、ホープ自動車製のトラックの事故の多さに不信を持ち、独自で調べている。2人の努力の結果、ようやくホープ自動車の事故を週刊誌の記事にするとこまでこぎつけるが、広告主であるホープグループの圧力により潰される。
事故調査を続ける赤松運送の社員は、ついに事故原因がホープ自動車のトラックに起因するものである証拠を発見する。その時の赤松運送の社員の喜びようは何回見ても飽きない。このドラマの面白いところは、赤松運送を演じる役者は、どこか田舎っぽく好感が持てる。専務の宮代を演じる大杉漣もいい味を出している。一方、ホープグループ側の役者は、垢抜けされた人を演じている。その対比が面白い。
証拠をもって赤松は、ホープ自動車に乗り込んでいく。事故の原因は各運送会社の整備不良という見解を崩さない品質保証部の室井に対し、1件の事故をとりあげ、「このトラックは、整備の必要のない新車だったんだ」と突きつける。ドラマの第4話の最終シーンだが、池井戸作品の真骨頂、小が大をやっつける痛快なシーンだ。その後に流れる主題歌、「テネシー・ワルツ」ぴったりはまる。
ラスト第5話に入っても、すんなり赤松運送が立ち直るわけでもなく、ホープ自動車が追い込まれていくわけでもないまま、話が進んでいく。しかし、井崎が大学時代の友人、榎本にホープ自動車の内情を伝え、ついに週刊誌に載ることになる。ホープ自動車に家宅捜査に入った警察も、証拠を見つけかねている。そこに沢田が、検査記録を改ざんした証拠のパソコンを警察に持ち込み内部告発し、ついにホープ自動車の狩野常務は逮捕される。
弱者、赤松運送が痛めつけられる時間が長い分だけ、最後にやり返す時が爽快だ。仲村トオルの熱い演技、赤松運送の家族的な雰囲気も見応えがあり、池井戸ドラマの中でも最高ランクの出来だ。
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