祈りの幕が下りる時

東野圭吾の加賀恭一郎シリーズ、東野圭吾で映画一番泣ける。

 ネタバレ有り

 加賀シリーズでは、恭一郎の父親、隆正(山崎努)の登場シーンが多いが、本作では母親、田島百合子(伊藤蘭)にもスポットが充てられている。以前に加賀シリーズは家族愛の物語だと書いたが、この作品も家族愛があふれている。恭一郎の母親への思いが、所どころに現れている。作中で隆正が死に面して「あそこからなら好きなだけあいつを眺めていられる。肉体なんかじゃまなだけだ。」、浅居忠雄(小日向文世)が「いつか死んだら、お父ちゃん、明治座に憑りつこうかな。そしたら博美の舞台好きなだけ見ていられるし」という言葉は息子、娘へのなんと慈愛のこもった言葉だろう。

 事件の終盤のネタ晴らしからはじめるが、浅居忠雄、舞台演出家・浅居博美(松嶋奈々子)親子が、博美が中学生の時に、借金取りから逃げるため、夜逃げをしたときに、食堂で出会い援交をすすめてきた横山一俊(音尾琢真)を殺してしまったことが原因で事件がおきる。この時の浅居忠雄の冷静な事件の処理は、「容疑者Xの献身」の石神哲哉(堤真一)を彷彿させる。この時離れ離れになった親子が、毎月、隅田川の橋の上で密会を行っていくのが、この作品の重要な要素になる。

 映画は、東京のアパートで女性が、河川敷でホームレスが殺されたところから始まる。ホームレスが実は博美の父親、忠雄であり、忠雄は首を絞められた後に焼き殺されている。

 この浅居忠雄は、博美が中学時代に自殺したことになっていることや、名前をいくつも変えることで事件が複雑になっていく。

 浅居忠雄と加賀恭一郎の母、田島百合子が恋人という設定もおもしろい。博美は、自分の父親の恋人の息子が存在していることを知り、演劇の中学生に剣道を教えてもらうという名目で、息子の恭一郎に会いに行くが、このことがヒントになり後々、恭一郎に犯行を暴かれる。しかし、博美は中学生時代に人を殺しておきながら、目立つ舞台演出家になったり、わざわざ刑事に会いに行ったり、大胆な行動をする人だ。

 自分の存在を隠し、博美と会っていた忠雄だが、博美の中学時代の教師であり不倫相手、苗村(及川光博)や博美の同級生、押谷道子(中島ひろ子・東京のアパートで殺された人)に見つかったことにより、二人を殺害してしまう(苗村は19年前殺害)。苗村を殺害した時にレンタカーの手配を娘に頼む忠雄は、殺人に慣れた、冷酷な人間を思わせる。

  押谷道子を殺したことで生きていては、博美に迷惑をかけると考えた忠雄は自殺を考える。

 浅居博美の中学時代に忠雄、博美親子が夜逃げをした場面から、この映画は涙が溢れていく。14歳の博美を演じる桜田日よりの演技が実に泣ける。逃避行が「砂の器」に似てるとも言われたが、涙を誘われる。この時立ち寄った比叡山延暦寺での言葉が、後に重大な出来事を引き起こす。

 映画のクライマックス、恭一郎が、忠雄を殺したのは博美だと発言する。

 焼身自殺を行おうとする忠雄を見つけた博美は、以前忠雄が、延暦寺で焼身自殺なんて考えられないと、話していたことを思い出す。

 忠雄が火に包まれて死ぬ苦しさを回避するため、博美は自分が殺し、火をつけるという決断をする。

 感想は人それぞれ分かれるところだろうが、母親の借金で夜逃げに追い込まれたことや、割りばし程度で人を殺してしまったり、大観衆の明治座で、忠雄が押谷道子に見つかったりと、余りにもこの親子に不幸をもたらす映画でした。

 

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